「不夜城」に苦しむ

不夜城 (角川文庫)

不夜城 (角川文庫)

一応このブログの主旨は日々読み倒している本を紹介するというものなので、本のお話。先週買ったのはこの馳星周出世作。ずっと読もうと思っていたが読んでいなかった本の一つ。

で、感想。つまらない。こういうエンタメ系の本は2日もあれば普通読み終えるんだけど、毎日通勤に持っていっているのに終わらない。電車で読む。うーんと首をひねる。携帯見る。ipod nanoPerfumeもしくはすべらない話を見る。また読む。うーんと首をひねる。(以下同じ)

でも、何がつまらないのかうまく言えない。あえて言えばディテールのつまらなさ。新宿の裏社会人脈、街の風景、人間関係、すべて結構書き込んであるんだけれど、ひとつひとつがどうもリアリティがない。いやリアリティがないというか、物語的説得力がないというか。

先に読んだ解説の北上次郎は、ハードボイルドでありながら、登場人物の誰にも共感できない。このカタルシスのなさが、北上謙三などの旧世代と大きく違う画期的なことなのだと書く。

ああなるほど、と思うけれど、例えば阿部和重の大傑作「シンセミア」も同様に出てくるやつみんなどうしようもなく、全く共感できないやつらばかりだったけど、更に細部のディテールも良く書き込まれていたけれど、とにかく面白くて一気に読めた。

考えるにこの不夜城の主人公は、結局のところナルシストなのだ。彼を、人間的な感情を拒否した冷徹な人物として描き、読者との安易な連帯を避けようとするのはありだと思う。でも、この主人公はところどころで自分の過去を現在に結びつける。中国人と日本人との間に生まれ、その出自で苦労してきた自分。その葛藤が自白としてそこかしこにあらわれ、現在の自分と結びつける。

そういう過去の呪縛って(ありふれた)ストーリーラインが物語の中心を貫いているにも関わらず、作者はそこにカタルシスを付与しない。

例えば東野圭吾(ハードボイルドではないけど、エンタメとして)はいくら凡庸、というかありふれたストーリーラインをベースにしながらも、とにかく読ませる。細部にサービス精神があふれている。

なんだかまとまりのない文章になってしまった。まとめると、この作品をつまらなくしているのは、作者はハードボイルドの文法とやらを否定したいのに、結局物語がその凡庸さから逃れられていない点にあるのだと思う。僕はハードボイルドは殆ど読まないけど、やっぱり藤原伊織みたいにど真ん中のものを読みたいと思う。