孤独の行方

89年の村上春樹インタビューより。おそらく孤独は深まっている。共闘なんか殆ど話題にもならない。では、「共感」は?

僕らはもう共闘することはできないんですね。それはもう個人個人の自分の内部での戦いになってくる。というか、もう一度そこの部分から始める必要がある。状況をどう受け入れるか、どう自分を異化させるか、そこでどのような価値観を作っていくか。ちょうど『羊をめぐる冒険』で「鼠」が羊を飲み込んだみたいにね。ひとりひとりが自分でそれを飲み込まなくてはならない。そこには共闘というものはないですね。シンパシーを感じあうことはできる。共感することはできる。でも共闘はできない。そういう意味ではむずかしい時代ですね。孤独な時代だと思う。だからもし僕の小説がある種の人々のシンパシーを得ることができているとすれば、それはそういうことだと思うんです。」
ユリイカ」 臨時増刊・総特集・村上春樹の世界、インタビュー「山羊さん郵便みたいに迷路化した世界の中で」