鶴見俊輔 上野千鶴子 小熊英二 「戦争が遺したもの」

戦争が遺したもの

戦争が遺したもの

本棚を整理していて何となしに再読。改めてこの本の面白さに気づかされる。知的興奮を味わえる稀有な対談集。ある思想にのめり込み、大儀を掲げて突き進むことの危険性を、鶴見俊輔はその人生で指摘し続けてきたといえる。思想の科学、転向研究、べ平連、慰安婦補償、戦後史において重要なこれらの動きの中で常に中心的な立場にありながら、鶴見俊輔はそのしなやかさを失わなかった。しかもその柔軟性が、深い知性とユーモアに支えられてあることに僕は感銘を覚える。高橋源一郎が、鶴見への敬意を美しい言葉で表したエッセイで、鶴見から学んだことをこうまとめている「もろい部分にたて」。思想というと、なにか絶対的な響きを持ってしまうけれど、鶴見が示してきたのは、思想とは一人一人の生活の中で鍛えられ、表現されるものだということだ。こういう考えは、一歩間違えれば陳腐なものだ。けれどこの本は、鶴見が歩んできた戦中、戦後の歴史についての語りを踏まえているからこそ、説得力を増している。小熊英二「民主と愛国」と併せて読むと、日本が歩んだ戦中戦後の歴史に対する理解がぐっと深まる。

評価:★★★★ しなやかな思想の凄み