続けたらいいことあるよと人は言う

走ることについて語るときに僕の語ること

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仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか (幻冬舎新書)

仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか (幻冬舎新書)

今日は大事な打ち合わせ3回目。段々と確信に近づいている感あり。

さて、先日面白いと書いたこの2冊。何が面白いのか。前者は村上春樹が自分の作家遍歴(メモワール)をマラソン体験を通じて語ったもの、後者はパーソナルトレーナーが筋トレの効用を語ったもの、この2冊に何か共通点はあるだろうか。

その共通点とは「持続すること」の重要性だ。村上春樹は本当にこの「持続すること」が彼の作家性を築いてきたことに確信を持っている。だから彼にとって「走ること」は、(時にマラソン嫌いなら辟易とするくらい)エッセイなどで繰り返し語られてきた。走ること、しかもそれを毎日しつこいくらい続けること、途絶えさせないこと。彼が物語として射程の広い「ねじまき鳥クロニクル」に辿り着けたのも、そしていつか「総合小説」を書きたいと言っていることは、かれのこうした気質と明らかにリンクしている。

そして、この本でも彼は作家に必要なものとして、第一に「才能」、その次に「集中力」、続けて「持続力」を挙げている。

集中力の次に必要なのは持続力だ。一日に三時間か四時間、意識を集中して執筆できたとしても、一週間続けたら疲れ果ててしまいましたというのでは、長い作品は書けない。日々の集中を、半年も一年も二年も継続して維持できる力が、小説家には―少なくとも長編小説を書くことを志す作家には―求められる。 前掲書p108

村上春樹は作品を仕上げることは肉体労働だ、そしてそれを支える体力が無ければ決していい作品は書けない。ということを本当に何回も何回も言っている。これは彼にとって信仰に近いとすら言える考えなのだろう。

で、この村上の考えが(タイトルが最高に恥ずかしい)2冊目の本に繋がってくる。この本で作者は、トレーニングで最も重要なことは「続けること」だと書いている。多くの人はそこで挫折すると。もちろんそんなの当たり前の意見だろうと思うかもしれない。ただ、この本のいいところは、この「続けること」がいかに難しいか、そしてそこを乗り越えること、つまりトレーニングを継続し続けることがトレーニングの本当の価値なのだということを、本の前半部分で繰り返し述べている点にある。そこに徹底的に焦点を当てている。例えば、習慣化がいかにメンタルタフネスに良いのか、など確かに実感としてもうなづける例を挙げながら、彼はトレーニングの効用を明確化していく。

この前半部分の主張の絞込みがこの本を普通のトレーニング本より優れたものにしていると思う。正直後半部分のトレーニング法などは、他の本やWEBで書かれていることも多く目新しさは無いが、そこを差し引いても、この本は読む価値がある。

今年の正月に放映したNHK「プロフェッショナル」のイチロー特集は、彼が習慣の鬼であることをよく映し出していた。彼はシアトルにいるときは、毎日昼食に必ず妻のカレーを食べる。試合前の練習メニューは必ず同じものを同じ手順で繰り返す。打席に入る前の一連の動作も有名だ。イチローに限らずアスリートが皆口を揃えるように、考えて動作するようではだめで、体が自ら反応するように彼らは練習を繰り返す。

この習慣化の効用、というテーマは内田樹氏が好むような身体論の話でもあるし、脳科学の話としても面白そうだ。特に後者の脳科学と絡めた研究で面白い本が無いか探してみたくなる。誰か知っていたら教えてくださいな。