ドキュメント 戦争広告代理店 高木徹

以前より読もうと思っていたが、結局文庫化されるまで読まずじまい。何となくタイトルと聞こえてくる評判から変な偏見をもっていたので。PR会社がボスニア紛争を牛耳ったことを糾弾している本、かとちょっと思ってたのだ。

しかし、この本はそういう単純な図式から遠く離れている。ボスニア紛争でいかにルーダー・フィン社のジム・ハーフを中心としたメンバーが、明確なPR戦略と実行力で、如何に紛争をボスニア=善、セルビア=悪という明確な図式に国際世論を誘導していったかが、綿密な取材をベースに、しかも非常にわかり易い文体で描かれている。

ここで重要なのは、ジム・ハーフ達が戦争をビジネス化したことではない。この本で面白いのは、ジム達が情報の本質を鋭く理解しており、またそれを如何に整理し他者に伝えていくのか、そのノウハウをプロフェッショナルとして見事に手法化していることだ。つまり、事は戦争に限らない。ビジネスでも政治でも、そして学問でも、ある情報をどう整理し如何に他者に届かせるのか、というのが決定的に重要であることをジムたちは見事に喝破している。そして、著者もそのことを十分理解しているが故に、この本ではジム達の手法に対する批判は殆ど見られない。その代わり、著者は丹念な取材で、ジム達のとった戦略、手法、その成否をつまびらかにしていく。よって、この本は単なる国際紛争のルポに留まらない。例えば僕にとって言えば、いかに自分が日頃のビジネスで情報に対する感度が低いか思い知らされた。この本は、広く情報を扱う人たち、つまり社会人として働いている殆ど全ての人にとって有用な「実用書」と言えるのではないだろうか。