村上春樹が大好きだった。大学生の頃は、折に触れ過去の作品を読み返し、好きなフレーズを繰り返し味わい、なんと素晴らしい世界が描かれているのだろうと感動した。村上春樹が繰り返し描くのは、人は何故空虚なのか、誰とも本当の意味で繋がり合えないのか、という思いだ。失われた自己を回復するために、登場人物たちはそれぞれの形で格闘する。この世界観が、何をしても空虚さが消えず、孤独ばかり感じていた大学時代の自分を助けてくれた。

しかし、社会人になり4年が経って、過去にはあれほど強い感動を覚えた作品群を読み返してもまた、新作に触れても、あの頃感じた強い思いは戻ってこない。正直に言えば、退屈さすら感じてしまう。そういった意味で、僕にとって彼の作品は「青春小説」なのだろう。奇しくも彼のエッセイにあったけれど、ある日どこかで青春は終わりを告げる。僕には、自覚的な分水嶺があったわけではないけれど、確かにそれは既に終わっている。そしてそれは、哀しいことではなく、どちらかと言えば喜ばしいことなのだ、僕にとって。