フルタイムライフ 柴崎友香

フルタイムライフ

フルタイムライフ

柴崎作品を着々と読み進め、このフルタイムライフを除くとあとは「ショートカット」asin:4309016332。なんだか少しもったいない気がしてくる。

さて、このフルタイムライフ。事務職として包装機メーカーに勤めることになった主人公の生活を、5月から2月まで1月ずつ描いている。いつものように、大きな出来事は起こらない。そのストーリーは、平凡なOLの日常の生活を描いた、という人がいてもおかしくないくらいだ。慣れない社会人生活での戸惑い、会社近辺の店にいる男性への淡い恋心、同僚の事務職OLとの会話、などなど、大きなドラマはそこにない。

どこかで読んだんだけれど、柴崎さんは、要約ができないようなそんな作品を書いていきたい、というようなことを言っていた。確かに柴崎作品には、このフルタイムライフに限らず、例えば、登場人物の毀誉褒貶やドラマチックなクライマックス、というようなものは描かれない。主人公達は日々の生活をどちらかというと淡々と送り、そこに極端な盛り上がりも、逆に盛り下がりも無い。まるで僕らの日常のようだ。では、それは僕達の生活そのままを写し取った作品なのだろうか?

必ずしもそうと言えないところが彼女の魅力なんだと思う。主人公達は僕たちと同じような生活を送っている。しかし、例えば柴崎さん特有の細部の描写、この作品で言えばコピー機やら製品の包装機、窓から見える景色、同僚達の風貌や仕草、そういった描写が積み重なっていくと、そこに描かれる世界はそれ自体で躍動し始める。だからそのリズムに浸ることが出来るとき、僕はその世界の一員として主人公達と話し出したい欲望に駆られる。そういう純度の高い良質な物語性に僕は魅かれているのだと思う。

うーん、まだうまく言い切れていない。彼女の魅力については引き続き考えていきたい。